蜷川幸雄さんが最後に演出を手がけた作品のひとつ、「尺には尺を」を見に行った。
藤木直人さんと多部未華子さん、そして辻萬長さんという方が主演だったのだけど
この辻さんという方の演技が素晴らしく。
今までシェークスピアの作品は「マクベス」「ベニスの商人」しか見たことないけれど
セリフが独特で長く、役者泣かせだろうなぁと思っていた。
その難しいせりふが辻さんの手にかかると絶妙なる声の七変化による朗々たる名調子。
セリフひとつひとつが歌のようにすんなりと心に入ってくる。
私は辻さんという方を今回の観劇で初めて知ったのだけど
プロフィールを見ると「俳優座」の養成所出身とのこと。
舞台の俳優は自分の体をコントロールする訓練をするという。
もちろん確かな発声のために腹筋や滑舌とかも大切だけど、
それ以外にも緊張させる、ゆるめる、体の筋肉、顔の表情筋をひとつひとつ意識する訓練をするのだ。
多分、その積み重ねが自由自在な表現につながるのだろう。
今回、辻さんは堂々たる領主として、そしてその領主が変装する人の心をいやす神父として
ひとつのキャラクターで2通りの表現を使い分け、芝居を進めていく重要な役割。
剛と柔、重さと軽さを自在に操り、舞台はまさに彼の掌に。
小劇場系とはまたちょっと違った伝統的な養成所出身の方の役者としての魅力を堪能したお芝居でした。